essen

Essen

パリ滞在中ですが、取りあえずEssenの報告。


Essenはこの地域がルール炭田で栄えた時代の中心地の一つであり、現在も石炭採掘の遺構が残されています。この 「Zollverein炭鉱」遺構は世界遺産にも登録されていて、特に12番シャフト付近は展示会場やミュージアム、スタジオなどとして再生利用の試みがされています。20世紀初期に建てられた鉄骨+レンガの建築にはバウハウスの影響が強く出ていて、「世界で最も美しい炭坑」とされているとか。

この建築群の再開発には有名な建築家も何人か関わっていて、最近話題になったものだと、sanaaのdesign schoolやOMAのKOHLENWÄSCHE(この語の訳が分からない…。施設自体は企画展示用ギャラリーみたいなものです)、少し前だとFosterのRed Dot Design Museumもここにあります。

sanaa


OMA棟の屋上から辺りの景色を眺めると、遠くに木々の間にぽつぽつと巨大な遺跡が 点在しており、アンコールワットのような東南アジア王宮遺跡や「ナウシカ」に出てくる腐海の景色を連想させます。

特に印象に残ったのはOMA棟。既存部分を可能な限りそのまま残しながらもレセプションへと繋がるエスカレータや各階の展示室をつなぐ階段などの動線要素を効果的に挿入することでmuseumとして再生させています。ちなみにこの遺構再開発のマスタープランもOMAです。


レセプへと繋がるエスカレータ。

この遺構群を特徴づける要素として掘り出した石炭を各施設へと運搬するためのベルトコンベアがあります。このコンベアは敷地全体を文字通り縦横無尽に走っていて、場所によっては地上からかなり高い位置を飛んでいたり、かなり距離のある施設同士をつないだりしています。
前述の展示空間へと導くエスカレータはあきらかにこのコンベアを参照してデザインされており、世界遺産の遺構群としての全体の調和を保ちながらも、 入っていきなり24 メートルの上空にあがるという 美術館としては(というか建築としては)、かなりアグレッシブな動線処理を行っています。

24メートルレベル(この施設ではそれぞれのフロアは「階」ではなくGLからの高さで表記されている)でチケットを買った後、巨大でまっ暗な竪穴を生かした階段室吹き抜けを通って書く展示室へとアクセスしていきます。

ここでは「一度上がる」という行為が空間体験上でも美術館の構成の上でも重要な要素となって働いおり、この展示場の建築的なミソになっています。

通常はあり得ない計画なのですが、ここではコールハアスのいう現代建築2大発明(もう一つはパーティクルボード…だったかな?)の一つであるエスカレータをもちいることで、その動線的な「無理」を自然な形で解決しています。
一階にエントランスを作ったとしても、いずれ展示を巡る間に上階へと昇必要があるため、実際はそう大差ないのかも知れません。エントランスを上階に作った場合、クロークの荷物を取るためにもう一度上階に上がる必要があるのですが…


展示室へと降りていく階段室には開口が一つもなく、通常の建築では非常階段でもない限りはこういうことはまずないのですが、ここではそれを生かして、地中深くの異世界へと潜っていくような不思議な体験を演出しています。恐らく、一度24メートルまで上がるのにはこうした演出上の理由もあるように思います。

もう一つ、1層目にエントランス作ると、動線の距離、鑑賞順、地上からの距離が互いに比例するために、どうしても地上に近いフロア順にヒエラルキーが形成されてしまうように思うのですが、この棟では、それを逆転させてしまっているので、そのヒエラルキが弱くなり、フロアと階段がよりフラットな関係で接続しているように思います。 各フロアを「階」ではなく「メートル」で呼んでいるのもそうした効果に少なからず寄与しているように思います。

美術館などの展示空間では階段の昇り降りは意外と体力を使ったり、歩くだけで疲れきってしまうものなのですが、ここでは階段を降りていく(重力に身を任せて…)ことで展示を巡ることと、地下へと潜入するような空間体験が展示への没入度を増大させているように思います。

ただ、この施設は、周辺施設も含めて まだまだ稼働率50パーセントの状態でならし運転をしているという印象を受けました。 red dot museumは半分ほどしか展示が埋まっていなかったし、未だ補修中の箇所もありました。 KOHLENWÄSCHEも実際には一つの展示室しかOpenしていなかったので、全部埋まったときにシークエンスがどういう流れになるのか。図面などで確認出来ないためちょっと僕には分かりません。完全Openにはまだまだ時間がかかるようです。

つづく。