Munchen2

その場所にはその場所の空気の色というか光の質感みたいなのがあって、町並みや文化と言ったもの以上にその土地の風景を規定しているように思う。

冬のイギリスの太陽は地平線ギリギリのところを「ひゅん」と飛んでいきながら、いつも淡い黄昏の光を投げている。
遠くの丘や木々はそうした光にふわと包み込まれているように見える。逆光の中でものを見ると輪郭だけボヤンと浮き出る感じ


ミュンヘンの空気はとにかく白い。丘の上から街を見ると白い霞の中に沈んで見える。地面に降りた霜がもう一度大気中に溶け出ているようだ。マドリッドと同様内陸にあるので風があまり吹かず、一日中そんな白い空気が停滞している。
街に出ると人の吐く息と混じってきらきらと輝いて大変美しい。

特に印象的なのが日暮れ時。
太陽が傾いて、徐々に暗くなるのではなく、彩度が失われていく。周りの景色の彩度とコントラストが無くなって白っぽくなり、山際が赤く輝いたと思ったら一気に暗くなる。


電車の車窓から撮ったミュンヘン(郊外)の夕暮れ

Munchen にあるAllianz Arena(Herzog de Meuron)はそんなミュンヘンの空気をぎゅっと圧縮して結晶化させたようなそんな建築。2006年のドイツワールドカップジダンが頭突きしたスタジアム。

飛行機を連想させるぬめっとしたちょっと未来的なシルエット。周囲にある街灯やサインもそれに併せてデザインされている。


相変わらず内部空間は端正。と言うか素っ気ない。地上階に突き出た階段とファサード付近をぶれながら登っていく階段の2種類の階段が体験的なアクセントとなっている。

特徴はなんと言ってもこの外皮。空気膜の菱形ユニットがスタジアムの表面全体を覆っている。このユニッの中に空気を送り込んで膨らむことで「ぬめっ」間を実現させている。2階から4階までは透明から半透明へのグラデーション。5階以上は白色。屋根は透明(これは内部の天然芝に日光を当てるため)。

ュニットの裏側の角にとりついているチューブから空気が送り込まれている。
裏側には更に夜間用の白赤青3種類の照明が付いている。このスタジアムが3種類の色で光るのは非常に有名。このライトが半透明の皮膜に当たってぼんやりとした均質な光を外側に放つ。こういうやり方は非常にウマく、そして美しい。DVDでライトが一斉に点灯する映像を見たのだけれど、非常に感動する。


この表皮には日本の旭硝子のETEFEと呼ばれるフッ素樹脂膜が使われている。温室の透明な部分から曲面用フィルム太陽光発電パネル(曲面に併せて曲げることが出来る)までかなり広い用途に使われるようだ。ヨーロッパではかなり需要があるらしくイギリスに専用工場があるとのこと。日本人ではなくスイス建築家が日本の技術をこういう形で使っていると思うと少し悔しい。
この素材は結露もしにくいらしく内部の除湿や排水のための設備は一切見あたらない。吸気用チューブの穴からの排水は物理的に無理そうだ。それでも耐用年数は25年。25年間結露しないってことか。ただ、このファサードの内側も外側も基本的には外気なのでそもそも結露しにくい環境下なのだ。

ちなみに僕は地元鳥取がTVに映り出されたとき、たとえそれが見たことない風景であっても、かなりの確立でそれが鳥取なのだということが分かってします。と言っても鳥取を全国ネットの番組で見ることなんて年に1回くらいしかないのだけれど。晴れていても常に空全体に薄く雲がかかっていてすっきりしない感じだとか、曇っていたら曇っていたらこれまたすっきりしない感じだとかが、空の色や風景の見え方に独特の影を落としているように思う。というか影が非常に薄くて街も人もぼんやりと抑揚の無い感じに見えて、その見え方のようなものが身体にすり込まれているのだと思う。