musac

LeonにはMansilla y Tunonの代表作Auditorio de Leon とMUSAC(Museo Arte de contemporaneo Castilla y Leon)がある。
Mansilla y Tunonは日本でもよく雑誌などのメディアで紹介されている。東のRCRと並んでスペインで今最も勢いのある建築家。

彼らの建築プレゼンの特徴はポップでキャッチィな記号的なダイアグラムだ。
しかし、実際に訪れてみるとそのような印象は全く消えてしまう。僕は、彼らは現代建築における内部と表層の乖離(いわゆる建築的ロボトミィ)を自覚した上で極限までその乖離を遊戯する姿勢にあると感じた。

例えばMUSACの無骨なコンクリートの構造体は規格化されたガラスカーテンウォールによって全面覆われることで隠蔽されている。内部の機能がいったい何なのか(もしかすると初めて見た人はオフィスビルだと思うかも知れない)何層の建物なのかも分からない*1 内部から見ると壁に巨大な明かり取り用の開口があるにも関わらず外からはその位置が全く掴めないようになっている。壁にも開口部分にも同じ半透明ガラスパネルを用いることで窓や出入り口といった内部と外部を繋ぐ記号が徹底的に消去されている。

この無表情な表層が一変するのがエントランス部分だ。歩道から回り込んでエントランスのある前庭部分にはいると、カラフルなパネルが並ぶ空間へと誘い込まれることになる。カーテンウォールの裏にそれぞれ異なる色のパネルを挟み込むことによって他の部分とは明らかに異なる表情を作り、エントランスであることが誰の目にも分かるようになっている。

僕はしかし、この行為は他の無機質な表情の周辺部とエントランス部との差異化などではなく、むしろ、徹底した同化なのではないかと強く感じた。なぜなら、このエントランス部分のファサードはその他の部分といくらでも置換可能だからである。もし、このカラーパネルをすべて抜き取り、別の開口部(例えば従業員出入り口や搬入口など)付近に移植したとしても、その開口部は新たなエントランスとして機能することだろう。*2 これは、エントランスという機能を建築的に異化することの放棄。もはや居直りでしかない。現にMUSACの公式ガイドブックモEl edificio the Buildingモにはこのカラーパネルが入れ替え可能であり、企画展示に併せてその内容を告知するイメージや看板に置き換えることを謳ったダイアグラムが掲載されている。

このように規格化・均質化が徹底された表層とは対照的に内部空間はRCの巨大な壁が強調された表現となっている。照明器具や家具にはチープでキッチュなものが好んで用いられている。開口部のサッシも内側から貼り付けられたようなディテールにすることによって建築本体から独立した要素として表現されている。それらはこのRC駆体の重厚さとは対照的な「軽さ」によって建築の重厚さを際だたせる効果が意図されている。

この限りなく薄い表層としてのファサードと洞窟のような内部空間は、しかし、奇妙な一体感を見せる。
無機質なファサードの前を横切り、色とりどりのパネルに囲まれた前庭を抜けてエントランスホールに入る。訪問者がその巨大な2つのボイドの下で感じるのは、この空間に至るまでに体験として刻み込まれた均質で冗長な空間体験、そのものの不在なのではないか。

MUSACの表層と内部空間の対照的な表現、互いの徹底的な否定によって逆に表層が内部を、そして内部が表層を互いに暗示しあう。

その相互暗示を保証するシステムがこの建築のプラン上の特徴である「揺らぎ」を持つグリッドだ。
この揺らぎが、前の道を横切り、前庭に入り、エントランスから内部に入り、展示物を鑑賞する。それらの動作一つ一つが一連の連続した行為として感じられるものへと還元。内部空間と表層の乖離はこの揺らぎによってギリギリ離れずに繋ぎ止められる。その結果この二つの間にはな相互暗示が発生し、そうすることでむしろ逆に互いの存在を強化しあう結果をもたらすのだ。

Musacには二つの裏切りが存在する。一つは表象と建築の差異による裏切り。そしてもう一つは表層と空間の間に存在する裏切りだ。

表象-表層-空間という次元で異なる様相を見せ、それらの間の関係をねじることであらゆる解釈を許容しながら同時にそれらを裏切り続ける建築家。それが Mansilla y Tunon だ!

MUSACは日曜日訪れると無料になる。こういう美術館は結構多く、マドリードプラド美術館も毎日夕方無料になる。そして内部の撮影が自由!!人でも多くて市民に愛されている美術館という印象。
Auditorioの方は毎週日曜13時30分から内覧ツアーが出る。ホールの内部(このホールが曲面木仕上げで美しいのだ)も見られるので建築をやっている人は是非日曜に訪れることをオススメする。

それとLeonは夜景のきれいな街。特にカテドラルのライトアップは必見!!